病院の経理・アウトソーシングに関するコラム

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法改正に伴う、病院のインボイスと電子帳簿保存法の対応から病院が考えるべきこと

基礎知識 2023.04.06

病院の消費税は売上の大部分を占める診療報酬は事業者ではなく個人であることから、インボイスの考え方が他業種とは異なります。病院に関するインボイスと、少し遅れて施行される電子帳簿保存法について説明を致します。

インボイスはどのような医療機関が対象になるか

以下のインボイスの記載内容は、
・日本医師会が令和5年2月9日付通知文(日医発第2124号)に「消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)の開始に向けた周知等について」
・日本医師会が令和4年11月21日付通知文(日医発第1646号)に「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入と医療機関の対応」
を抜粋し引用を行っています。

医療機関の売上取引に関し、「適格請求書(インボイス)等」への対応が必要となるのは、事業者に対する課税売上がある医療機関です。

医療機関における事業者に対する課税売上としては、例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 企業から社員の健康診断や予防接種などを受託しているケース
  • 企業が費用を負担して社員に業務上必要な検査を受けさせるケース
  • 医療機関が企業から産業医報酬を受け取っているケース(医師個人が給与として受け取るものを除く)
  • 企業から顧問収入、受託収入、治験収入、テナント収入があるケース
  • 売店で企業等の従業員が社用の買い物をするケース

特に以下の病院は必ずご確認をお願い致します。

  • 消費税の納税が「一般課税方式」の医療機関等
  • 事業者宛てに課税売上(健康診断等)の請求書や領収書を出す医療機関等

いつまでに届が必要

事業者に対する課税売上(標準税率か軽減税率かは問いません。)がある医療機関は、令和5年10月以降、取引先の事業者からのインボイスの発行を求められる可能性があります。逆に事業者に対する課税売上がなければ、特に対応の必要はありません。

インボイス制度が開始する令和5年10月1日から適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)となるためには、令和5年4月1日以降の提出でも令和5年9月30日までの申請については令和5年10月1日を登録開始日として登録される取扱いとなります。

事前に検討すべき「インボイス対応」とは

インボイスは課税事業者でなければ発行できませんので、免税事業者である医療機関においては、「課税事業者となる選択を行うかどうか」も含めて検討する必要があります。

令和5年10月1日からインボイス発行事業者の登録を受けた場合には、同日から課税事業者になり納税義務が発生します。免税事業者であり、かつ事業者に対して課税売上がある医療機関は慎重に検討し判断する必要があります。

事業者に対する課税売上がある医療機関における令和5年10月以降の選択肢は、以下のように整理されます。

  1.登録申請を行い、登録を受け、インボイスを発行する
  2.インボイスを発行せず消費税相当額または一定額を値引きする
   (値引きは取引喪失のリスクを抑えるためであり、消費税法上、求められるものではない)
  3.インボイスを発行せず値引きもしない(取引喪失のリスクが高い)

上記1~3の選択を判断にあたって検討すべき事項は、以下の通りです。

  • インボイスの発行に対する取引先の意向、ニーズ
  • インボイスを発行する為の手間とコスト(手書きで対応するか、システムで対応するかの検討含む)
  • インボイスを発行せずに消費税相当額の値引きをした場合の負担
  • インボイスを発行せずに取引を失った場合の損失
  • 免税事業者においては課税選択した場合の消費税納税負担

電子帳簿保存法は全ての病院が対象

一方で、電子帳簿保存法は2022年1月からすでに施行されています。ただし、環境がまだ整い切れていないとの判断から本格実施は2024年1月からで、全ての医療機関が対象となります。

具体的には、取引先からの請求書等がメール添付等の電子媒体で届いた場合、紙で印刷をした請求書だけでは帳簿保存の要件を満たさなくなります。

仕組みを入れて対応をするか、一定のルールに基づいて保存を行うかのいずれかの対応となります。

これら法改正のキーワードは遵法と効率化

病院を取り巻く環境はいつになく厳しさが増しています。
電気代が上昇し、それに伴い給食材料や医療消耗品、寝具委託費が上昇しています。
また、清掃委託費、警備委託費、給食委託費等の人件費の上昇に伴い、コストアップが続いています。

手を打ってもコストが下がらない環境下ですが、手を打たなければコストアップが止まらない状況とも言えます。

その為、管理部門は遵法を行いながら、業務革新・業務改善を行い効率化は必須のテーマです。現場の医師や看護師をはじめとする医療従事者の努力を利益という結果に残すためにも、管理部門のDX、財務・経理のDXはこれからのテーマとして、ぶれる事のない考えで進める必要があると考えられます。

事務長が判断を迷われるケースは、DX化を進める事で今まで行っていた職員の仕事が無くなる、または仕事内容の変更を求める事になる為、もう少し時機をみてから取組みを考えたいというケースです。

ただ、違う考え方をすれば、そのスタッフに新たな仕事のチャンスを提供する事もでき、状況によっては新たな部署での活躍のステージにつながる可能性にする事も考えられます。

財務や経理スタッフは保守的な方が多い為、仕事内容の変更や部署異動に難色を示されるケースが想定されますが、事務長が考えるべき大儀は法人の利益の最大化です。
その上で、職員の適正配置を行い、マネジメントを行い続ける事です。

一昔前までは、手書きで帳簿をつけていましたが、今は手書きで帳簿をつけられている病院はほとんど無く、会計ソフトを用いていると思われます。

医療現場では、紙カルテから電子カルテに変化し、各部門ともソフト上で連携が進んでいます。それと同様に管理部門においても、さらにDX化する事で業務を見直して、生産性を向上させ、質を上げる事が求められています。

ただ一方で、投下コストと生産性のバランスも必要な為、未来から投影して、今必要な業務革新に勇気をもって一歩を踏み出す事が求められています。

経理スタッフだけでなく、保守的な会計事務所や税理士はDX化については10年、20年後の話しだと考えていますが、人口減少はすでに進行形であり病院を取り巻く環境は待ったなしの状況です。法改正前のタイミングが職員への説明のしやすさもある為、経理フローや経理業務、人員体制を見直す最大のチャンスです。

終わりに

決してシステム導入だけが答えではありませんが、世間の流れを把握したうえで、システムの検討も大切な視点です。しかし、病院について理解していないシステム会社が業務効率を謳い、病院がシステム投資をする事は過大投資につながるケースがあります。

病院の特徴や院内の仕組み、経理スタッフのスキルや定年予定等による現場の状況を俯瞰的に鑑み、病院の経理財務に精通をしているアウトソーシング会社や税理士法人に相談しながら進める事をお勧め致します。

「引用元:公益社団法人 日本医師会」

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