病院の経理と一般企業の経理業務の違いとは?
病院の経理と一般企業の経理は支払業務と大部分の会計の考え方は同じですが、
実務においては一般企業とは異なる考え方がいくつかある為、その違いについて説明を行います。
病院の経理と一般企業の経理は何か違うの?
病院の経理と一般企業の違いの根本的な違いは会計基準が大きな違いとしてあります。
厚生労働省は病院については「医療法人会計準則」を積極的に活用する事を推奨をしています。
厚生労働省が取りまとめているベンチマークや福祉医療機構(WAM)の提出資料も医療法人会計基準にそった様式となっている為、会計ソフトへの入力や決算書も医療法人会計準則に応じて作成する事で、他病院との比較検討ができ資料作成を効率的に行う事ができます。
同規模同機能の病院や介護事業と比較検討できることは、診療報酬や介護報酬で定められた単価や人員配置で事業を行っている特徴でもあります。
決算書を見て最も分かりやすい違いは、一般企業のように製造原価という概念が、医療法人会計準則にはない事です。
また、勘定科目の分類で特に売上に関する勘定科目において、医療や介護の独特な表現となっています。
しかし、診療所(クリニック)は医療法人会計準則に準拠しているケースが少なく、一般企業の科目体系を応用して用いられているケースがほとんどです。
病院と一般企業の経理実務で最も異なる点は、売上単価が公定価格で、その入金の約70%~80%が社会保険診療報酬支払基金(以下、社保)と国民健康保険団体連合会(以下、国保)から2か月後に入金がある点です。
また、請求した金額から返戻や査定減、減点があり請求した金額通り入金がされず、多くの医療機関では入金額に合わせて売上を減額修正してしまう点が、一般企業の経理と最も異なる点です。
一般企業では簡単には入金額に合わせて売上の減額を行いませんが、病院の経理または、会計事務所の指導で十分な確認をせずに入金額に合わせて売上を減額しています。
そして、医療法人は病院や老健、診療所(クリニック)のいわゆる本来業務以外に、グループホーム、訪問看護ステーション、ケアプランセンター、サ高住等の介護事業である付帯業務を展開しています。
定款に記載されている事業ごとに少なくとも損益は区分をして会計ソフトへの入力をする事で、事業別の損益を把握する事ができます。
本来は事業ごとに貸借対照表も区分をする事が望まれますが、その場合、本支店勘定を用いて支払業務を行う等、少し経理体制が複雑化する事から、事業ごとに貸借対照表を区分経理しているケースは少ないですが、しかるべき管理を行う事が望まれます。
また、病院は多くの部門で構成されている為、病院の損益だけではどこに課題がありどこに着眼をして経営改善を行う必要があるかが分からない事がほとんどです。
その為、病棟別・診療科別損益を作成し、病棟稼働率や平均単価、オペ件数、在院日数、在宅復帰率、医療区分、ナースの配置人数、スタッフの残業時間等それぞれの病院の機能に応じてインディケーターとあわせて損益を確認する仕組みを持つことで、ドクターやナース等とディスカッションが可能となり、課題改善に向けて一緒に取り組むことができるようになります。
病院の経理業務とは
多くの病院では3月決算が多く5月下旬に税務申告を提出する事が多いですが、弊社では4月下旬に税務申告をまとめ、5月上旬に税務署に提出を行っています。
いわゆる月次決算を適切に行っていれば、4月末に税務申告がまとまるのは当たり前の事となります。決算の提出日がいわゆる経理業務の質とイコールの関係であり、アウトソーシング会社の質と直結します。
病院の決算のポイントは、社保や国保、自賠責、労災、各市町村へ主治医意見書、補助金等の未収金を適切に金額把握する事がポイントです。特に補助金はどの事業年度分かを確認する事がポイントです。
また、社保や国保は再請求、請求保留を漏れなく計上する為には医事課とのコミュニケーションが重要で、患者や利用者からの未収金も漏れなく集計し計上します。
介護事業の売上については、消費税の課税非課税の判断を請求内容に応じて判断をする必要があり、医事課が必ずしも適切な理解をして消費税区分をしている訳ではない事に留意が必要です。
医療法人は定款で社員総会の開催月を決められています。
理事会を開催し決算承認が行われ、その1週間以上の間隔をあけて社員総会を開催し、決算承認が行われて税務申告書を提出する事ができます。
理事会の開催日と社員総会の開催日の順番が逆であったり、開催する間隔が法律で定められた期間と合致していないケースもある為、医療法に準拠して決算スケジュールで進める必要があります。
病院の経理は資格は必要?
病院の経理を行うために資格は必要ありませんが、病院や介護事業所の現場に精通し把握する事が何よりも大切です。
例えば、オペ場(手術室)で用いる診療材料は高額な材料も多く、人工骨頭は100万円前後する為、請求書を一見するだけでは資産計上と勘違いするケースもある為です。
また、固定資産台帳にはすでに除却して実在しない資産が残っているケースもしばしば見受けられます。結果的に本来支払う必要のない償却資産税を支払い続けているケースも見受けられます。
医療法人の事業数が多くなればなるほど、十分な資産管理ができていないケースがある点も、一般企業とは異なる点だと考えられます。
まとめ
病院と一般企業とでは会計の大きな枠組みは同じですが、会計準則の違いや勘定科目の違いがあります。病院や介護事業専用の会計ソフトを用いる事で、これらは整える事ができますが、会計準則の違いや勘定科目の違いがある理由は、病院や介護事業の特徴を鑑み、貸借対照表や損益計算書から課題を掘り下げ、経営改善につなげやすくする為です。